東京高等裁判所 昭和28年(う)3890号 判決
被告人 飯泉真二
〔抄 録〕
一、論旨第一点について。
所論は原判示第一の事実について、同判示(一)乃至(三)の貸付はいずれも貸金債権として存在するは勿論充分に弁済の資力を有する者を連帯保証人とし或は裁判上の和解により支払方法が確定しているのであるから、被告人の判示貸付行為によつて判示農業協同組合に財産上の損害を加えたものとはいい得ないとして原判決の事実誤認を主張するものである。然しながら刑法第二百四十七条に所謂財産上の損害とは、あまねく本人の有する財産上の価値を減少することを意味するものと解すべく、所論金員貸付行為の如き場合にその返済を期待し得るや否やに焦点を限定して損害発生の有無を判断するは妥当でない、これを原判決が確定した事実について見るに、被告人が判示農業協同組合長としてその任務に背いて組合資金の貸付を敢てした事によつてそれだけ組合財産の減少を来たすは当然の筋合であるから被告人の判示貸付行為が組合に対し財産上の損害を加えたものと断ずるになんら支障あるを見ない。換言すれば判示貸金についてたとえ所論のように返済を期待し得る裏付があるとしても、被告人の本件刑事上の責任を免除する事由とすることはできない筋合である。その他訴訟記録を調査するも原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認の点あるを見ない。論旨は理由がない。
二、論旨第二点について。
所論は原判示第二の事実について、死亡又は架空人の氏名を冒用して私文書を作成するも文書偽造罪を構成しないとして原判決の事実誤認を主張するものである。なるほど原判決の確定した事実によると、被告人が死亡又は架空人の氏名を実在人の氏名と共に列記して判示私文書を偽造したこと明らかであるが、一方訴訟記録に徴するとその偽造した連帯借用証書及び連帯債務契約書はいずれも所定の用紙を使用したものであり、被告人はこれにその借主欄に他の実在人の氏名と共に死亡又は架空人の氏名をいずれも実在する組合員の如く列記し、その名下に有合印を押捺し、以て一般に行われている農業手形制度による農業資材購入資金借入の要式に適合するように作為偽造し、これを判示茨城県信用農業協同組合連合会谷田部出張所係員に提出行使して所期の目的を達したことが窺われるから、たとえその冒用した名義人の中に死亡又は架空人があるとしても、そのいずれも巷間にありふれたような名義の者のみであつて、被告人において右名義人等が実在するものの如く作為したものと認めるのが相当であり、又それは独り関係当局ばかりでなく一般人をして実在人の真正に作成した文書と誤信させるおそれが十分にあるものということができる。これを実在人名義を冒用して偽造した場合と比較して考えて見ても、その関係当局のみならず一般人をして真正に作成された文書と誤信させる危険のある点においてなんら区別あるを見ない。即ち本件の場合にたとえ被告人が実在人の名義と共に死亡又は架空人の名義を列記冒用したとしても、判示被告人の所為が私文書偽造罪を構成するものと解すべきである。(昭和二五年(れ)第一三三五号同二六年五月一一日第二小法廷判決、昭和二七年(あ)第一三四二号同二八年一一月一三日第二小法廷判決参照)所論は大審院の判例違反を主張するが、その引用の判例は本件に適切でない。その他訴訟記録に徴するも原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認の点あるを見ない。論旨は理由がない。
註 本件破棄は、量刑不当。